春のかくれが

世界は物語でみたされる

10月13日

バルコニーから戻ってきた恋人が「飛行機が飛んでいて、その中にはたくさんの人が乗っているんだ。安心して。そう考えたらなんだか不思議じゃない」と言ったので、私はこの人をとても好きだと思った。「そうだよね、不思議。あの空を飛ぶ物質に一体何の保証があるんだろうね」そう言うことしかできなかったけれど、私は、あなたの言うことが分かる、と思う。寝る前の布団のなかで、見たこともない宇宙のことを思い出そうとしたけれど、分厚い透明な膜に隔てられてしまったその感覚。もう忘れてしまったの。子どもが遊びに飽きるみたいに唐突にやってくる忘却。私はあなたの感覚でこの世界を見ることはできないけれど、きっと違う言葉で同じようなことをいいたいのだと思う。これは弱さなのかもしれないけれど。あなたの神様を括弧でくくって怒られたこと。わかりあえないんだからそんなこと言って逃げるのは一番卑怯で、私に対する冒瀆だ。そう言われたことよりも、私の言葉が伝わらないのが悔しくて、もう何もあなたに向けて喋らないと決心したのにね。どうしようもないこと。

 

中国語の後に購買でパンを買って恩田陸の『球形の季節』を読む。祈りが生まれた、そう気づいたとき泣いていた。変わったのは私の方だったよ、お母さん。